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Victimae paschali

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「……なるほど。君の考えは分かったよ、拓人」
 そう言って、煌が不意に嗤った。
「この館からどうしても生きて出られないなら……いっそ二人とも吸血鬼になってしまえばいい、と言いたいのだね?」
 遼太は何も言わなかった。
 ただ、俺と煌の顔を交互に凝視めては言葉を探しているようだった。
 俺は冷たい笑みを浮かべている煌を睨み付け、そして言った。
「…そうだよ。貴方が先に言ったんじゃないか、元のままではこの館から出られない、って」
「……そうだね」
「だったら、もうとっとと俺と遼太の血を吸えばいいだろ!? こんな生殺しみたいな真似、続けやがって!」
「生殺し? そんなふうに思われていたとは心外だ。……『儀式』の手順を踏んでいるだけだよ、私は」
「そんなこと知るかよ! いいからもう俺と遼太を吸血鬼にでも何でもしろよ!!」
 この館に閉じ込められて、既に一週間以上が過ぎていた。
 停った時間、停った迷宮。
 絶望的な程に未来のないこの場所から、もう一刻も早く抜け出したかった。
 人であることを、捨ててもいいと思う程に。
 でも、そんな俺に返って来たのは思い掛けない煌の言葉だった。
「残念だが……私は遼太の血は吸えない」
「…え?」
 思わず呆けたように問い返した俺に、煌はひどく優しい笑みを浮かべ答えた。
「私だけじゃない。……世界中の闇に紛れ込んだ他の一族も、遼太を仲間にすることを拒むだろう」
「な…何だよそれ!? どう云うことだよ!?」
「君の友達は、既に穢れていると云うことだよ」
「え…──────!?」
 煌が、遼太の方に向き直った。
そ して冷たく蔑むような眼に明らかな嘲笑を浮かべて言った。
「……遼太。君の大事な『親友』が驚いているよ。……拓人は知らなかったんだね?」
「っ!」
 遼太が息をつめた。
 そして、あからさまに俺から視線を背ける。
「そうか。……今まで君はずっと拓人を騙して来たんだね? ……大事な『親友』を、欺いてきたと云う訳だ」
「…っ!!??」
 遼太の身体がはっきりと強張った。
「君が一番よく分かっているんだろう、遼太? ……私の言葉の意味が」
「あ……っ」
 遼太が短く叫んで、後ずさる。
「りょ、遼太!? どう云うことだよ!? 俺を騙してたって何だよ!?」
「拓人……」
 また遼太が後ずさる。
 俺から逃げるように、俺を拒むように。
「はっきり言ったらどうだい、『拓人のたった一人の味方』の遼太君? ……俺は、欲望に負けたんだ、とね」
「黙れ──────っ!!」
遼太の悲鳴のような叫びが、静かな大広間にこだました。
「……遼太?」
「た……拓人が悪いんだっ──────……!!」
「遼太!?」
「拓人が……拓人が全部悪いんだ!! お前が……お前がずっと俺の気持ち、気付かない振りするから……っ!!」
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